産地から卸売市場への出荷連絡は、長年FAXが中心でした。回線の状況によっては届かないこともあり、産地は再送に、市場は確認の電話に、それぞれ時間を取られてきました。
群馬県では、この出荷連絡をnimaruJAによるデータ連携へ切り替える動きが進んでいます。JA利根沼田様の久呂保集荷所は、出荷先へのFAX送信を完全にやめ、nimaruJAでのデータ送信への一本化を実現しました。JAにったみどり様も、生産者からの出荷連絡をnimaruJAに切り替えたうえで、出荷先へのFAX送信をやめる準備を進めています。
産地の現場で何が変わったのか。そして受け取る側の卸売市場はどう受け止めているのか。それぞれの現場にお話を伺いました。
JA利根沼田 久呂保集荷所 ―所長の決断で、出荷連絡をデータ送信に一本化―
紙・FAX・電話に分散していた、出荷連絡と帳票処理
久呂保集荷所は、レタスやほうれん草などの夏秋野菜を首都圏を中心とした多数の卸売市場へ出荷しています。齋藤所長は集荷所の統括とレタスの販売を担当しています。
nimaruJAを導入する前、出荷にかかわる連絡と帳票のほとんどは紙・FAX・電話で動いていました。
- 生産者の出荷伝票:出荷のたびに紙伝票へ同じ情報を手書き。記入漏れや、伝票を家に忘れてしまった際の対応も発生していた
- 集荷所の帳票処理:複写伝票を剥がし、現品票と突き合わせ、ホチキス留めし、運送会社別に振り分ける。この作業に毎日合計約2時間。各集荷所の事務員は1名で、不在時は販売担当者が分担していた
- 分荷作業:分荷入力の専用端末が1台しかなく、5名の販売担当者が集中時間帯に取り合いに。手書きの分荷表を事務員が手打ちし、送り状を発行するまでに30分以上かかっていた
- 卸売市場とのやり取り:FAX送信は回線状況によって送信エラーや不着が起こり、再送がたびたび発生。出荷数量が直前まで変動する品目では、現場作業中に電話や担当者ごとの個別LINEで確認が入り、安全面・作業面の負担にもなっていた

※イラストは従来(nimaruJA導入前)の作業風景のイメージです。インタビュー内容をもとに作成しました。
生産者はスマートフォンから出荷連絡へ。初年度からほぼ100%が移行
JA利根沼田様では、昨年のトライアルを経て今期から本格導入に切り替え、全品目のデジタル化を目標に掲げました。生産者は紙伝票の代わりに、LINEを通じてスマートフォンから出荷連絡を送ります。初年度からほぼ100%に近い移行率を達成しています。
スマートフォンでLINEを日常的に使っている方は、驚くほどスムーズに登録が進みました。「伝票を書く手間がなくなった」「伝票を家に置き忘れる心配がなくなった」と、高い評価をいただいています。年配の生産者からは当初「自分にはできない」という不安の声もありましたが、実際に目の前で操作してお見せすると、皆さん問題なく使いこなしています。紙とFAXをやめるという明確なきっかけがあったからこそ、年齢層を問わず定着したのだと感じています。
―― JA利根沼田 久呂保集荷所 齋藤所長
送り状発行は30分以上から5分に短縮。伝票の突き合わせまで含めると毎日約2時間を削減
生産者からの出荷連絡がデータで届くようになり、複写伝票を剥がして現品票と付け合わせ、ホチキス留めするという現場作業は完全になくなりました。齋藤所長の体感では、チェックと伝票発行にかかっていた作業が毎日約2時間削減され、事務員の負担が大きく軽くなりました。
分荷作業は、配布されたタブレットや各自のパソコンから5名の販売担当者が並行して進められるようになりました。手書きの分荷表を事務員が手打ちして送り状を発行するまで30分以上かかっていた工程は、ボタン1つ、約5分で完了します。品目をまたいで送り状を一括印刷できることも、現場のスピードアップを後押ししています。伝票の付け合わせまで含めると、約2時間かかっていた送り状発行までの作業は約5分に短縮されました。
思わぬ副次効果もありました。これまで集荷所ごとにバラバラだった野菜の共販規格が、nimaruJAへの登録をきっかけに統一され、業務の平準化につながっています。

※画面はイメージです。表示している出荷先・数値はダミーです。
「今後はデータ送信に一本化します」 ―FAX送信を完全に止めた決断―
生産者からの出荷連絡をデータ化しても、出荷先の卸売市場へFAXを送り続けていては、産地側の手間も市場側の手間も減りません。齋藤所長は、所長主導で出荷先と調整のうえ、FAX送信からnimaruJAでのデータ連携へ切り替えることを決断しました。
データ連携を始めた市場とも、しばらくはFAXとの併用で運用していました。二重に送っていては双方の負担が減らないので、「今後はデータ送信に一本化します」と決め、FAX送信を止めました。
切り替え直後は「FAXが届いていないが、どうなっているのか」という運用確認の問い合わせが市場から多く寄せられました。長くお付き合いのある市場から「FAXに戻してほしい」という声もいただきました。それでも、データで受け取るメリットを一つひとつ丁寧にご説明し、例外を作らずにお願いを続けました。
結果として、移行から約2週間で問い合わせは大幅に減り、市場側でもデータで受け取る運用が定着しました。今では電話中に送信すると「今届きました」とすぐに反応があり、FAXより速く確実に情報が届いていることを市場側にも実感いただいています。
―― JA利根沼田 久呂保集荷所 齋藤所長

受け取る側の卸売市場では ―「FAXがなくても問題なく、確認はむしろ早くて手軽」―
JA利根沼田様の出荷先である東京の卸売市場のご担当者の方々に、FAXが届かなくなった後の業務についてお話を伺いました。
グループ内の各担当者は、担当品目のデータをLINE WORKSでほぼ100%受け取れています。 FAXで受け取るよりも分荷作業を多少早められましたし、外出中に手元でパッと確認できるのがありがたいですね。
―― 東京の卸売市場 グループリーダー様
電話でのやり取りを減らしたいので入荷確認はFAXで行っていましたが、過去にFAXが届かず翌朝に予定外の入荷となり、その朝のうちに価格を調整して販売せざるを得なかったことがありました。FAXがなくてもnimaruなら外出先ですぐ確認でき、必要なときに必要な情報が見られます。
―― 東京の卸売市場 小松菜ご担当者様
FAXが届かなくなっても、パソコン上で確認して基幹システムへの入力を問題なく進められています。受け取る側としても用紙代の削減になりますし、いずれ来ると考えていたものがこのタイミングで来たというだけなので、問題なく運用できています。
―― 東京の卸売市場 荷受入力ご担当者様
産地側の業務効率化だけでなく、出荷先の市場でも次のようなメリットを実感いただいています。
- 外出先・出張中でも情報確認:LINE WORKSに通知が届き、事務所のFAXを待たずに動ける
- 予定外入荷の防止:FAX未着による予定外入荷を避け、計画的な販売につなげられる
- 正確な分荷をより早く:産地からのデータで数量が明確になり、分荷・受入をスピードアップできる
産地の脱FAXが、市場側の業務そのものを見直すきっかけに
産地からの出荷連絡がデータで届くようになると、市場側は「FAXを受け取り、事務が基幹システムへ入力する」という前提そのものを見直すことができます。実際に、次にご紹介するJAにったみどり様の出荷先であるある市場では、同JA様の取り組みをきっかけに、FAXを前提としない新しい受け取り運用の構築や、市場の基幹システムとのデータ連携の検討が始まりました。
産地の脱FAXは、市場にとっても自らの業務を組み替える好機になりつつあります。データで受け取る産地が増えるほど、市場側で得られる効果も大きくなっていきます。
JAにったみどり ―次に脱FAXへ向かうJA。まず生産者からの出荷連絡をデータ化―
同じ群馬県のJAにったみどり様も、出荷連絡の脱FAXに向けた取り組みを進めています。
FAXの「送信待ち」と、AI-OCRでも消えなかった紙の突き合わせ
JAにったみどり様では、出荷先の卸売市場への送り状を10年以上にわたりFAXと専用システムの組み合わせで送ってきました。夕方の送信ピークには回線が混み合い、送信待ちのまま止まってしまうことがよくあります。送信を待っている間に数量の訂正が入ると送信エラーになったり、送信済みの印がおかしくなったりして、リカバリーに時間を取られてきました。送信が完了するまで進捗を気にかけながら待たなければならず、担当者が業務時間内に帰れない要因にもなっていました。
生産者が持ち込む紙の送り状については、AI-OCR(手書き伝票の自動読み取り)も導入していました。しかし手書き文字の読み取りには限界があり、読み取れない項目がどうしても残ります。結局は手作業での修正と、2人1組での紙同士の突き合わせが必須でした。前日出荷分のチェックには、1人あたり約1時間かかっていました。
生産者のスマートフォン入力で、チェック時間を7割削減
nimaruJAの導入により、生産者がご自身のスマートフォン(LINE)から出荷情報を直接入力するようになり、読み取りエラーそのものがなくなりました。以前は1人あたり約1時間かかっていた前日出荷分のチェックは、15〜20分程度、約7割の削減になりました。突き合わせのプレッシャーから解放されたことも、担当者にとって大きな変化です。
出荷先市場と足並みをそろえ、FAX送信の停止へ
出荷先の卸売市場へのデータ連携も進んでおり、市場のご担当者からは「もうFAXでの送信は不要」と好意的な反応をいただいています。前章のとおり、市場側で受け取り運用そのものを見直す動きも始まっています。
9月から取引を開始する新しい市場についても、kikitoriが出荷先や品目担当の設定を事前に代行し、最初からnimaruJAでデータを送る形でスタートしています。JAにったみどり様では、こうした出荷先市場との調整を重ねながら、FAX送信を止めてデータ連携へ一本化する準備を進めています。
両JA様の挑戦から見える今後への展望 ~産地と市場、双方の「速く、確実に届く」出荷連絡へ~
JA利根沼田様とJAにったみどり様の取り組みは、進み方こそ違いますが、共通する道筋を示しています。
1.起点は、生産者からの出荷連絡のデータ化 どちらのJA様も、まず生産者がスマートフォンから出荷連絡を送る形に切り替えることから始めました。手書き伝票の突き合わせやOCRの読み取り修正といった、集荷所の「紙を相手にする作業」がなくなったことで、久呂保集荷所では毎日約2時間、JAにったみどり様ではチェック時間の約7割が削減されました。産地側にはっきりとした効果が出たことが、次の一歩に進む土台になっています。
2.市場へのデータ連携は、産地の決断と丁寧な調整で進む 出荷先へのFAX送信をやめるには、受け取る側である卸売市場の理解が欠かせません。久呂保集荷所では、所長が「データ送信に一本化する」と決め、当初の問い合わせにも一つひとつメリットを説明することで、約2週間で新しい運用が定着しました。JAにったみどり様は、出荷先市場と調整を重ねながら、FAX停止に向けた準備を着実に進めています。先に切り替えた産地の実績が、後に続く産地の後押しになっています。
3.市場側にも、はっきりとしたメリットがある FAXが届かなくなった東京の卸売市場からは、「外出先でもすぐ確認できる」「予定外入荷を防げる」「用紙代も減る」といった声が寄せられました。脱FAXは産地側の効率化にとどまらず、受け取る側の販売業務にも良い変化を生んでいます。産地が増えれば、市場側のメリットはさらに大きくなります。
今後の展望
長年「当たり前」だった出荷連絡のFAXをやめるという判断は、全国のJA様の中でも先進的な取り組みです。群馬県の2つのJA様がそれぞれの進み方で示した道筋は、これから脱FAXに取り組む産地にとって参考になるはずです。
JA利根沼田様では、レタスに続いてほうれん草などの品目にも移行を広げ、まだデータ受け取りに対応いただけていない出荷先にもnimaruでのデータ受け取りを働きかけていく予定です。JAにったみどり様では、出荷先市場との調整を進め、FAX送信を止めてデータ連携へ一本化することを次の目標としています。
そして、出荷連絡がデータで届くようになった先には、市場から返ってくる販売結果もデータで受け取り、生産者へタイムリーに共有するといった、産地と市場の双方向のつながりが見えてきます。kikitoriは、両JA様をはじめとする現場の声とともに、産地と市場の双方にとって「FAXより速く、確実に届く」出荷連絡の仕組みを、これからも進化させていきます。